moyaisは器のお店ですが、「器を売るだけで終わってはいけない」と常々思っています。「長い年月をかけて培われてきた日本の美しい手仕事を後世に残したい」という思いがあります。日本の美しい手仕事には様々なものがあり、器だけではありません。その手仕事の中で最も絶滅の危機に瀕しているものが編組品ではないかと思います。
もやい工藝初代オーナーの故・久野恵一さんは日本各地を歩き、その土地でつくられ使われている編組品のうち特に力強く美しいものを選び、注文し、美しい手仕事の品として紹介してきました。「編組品(へんそひん)」とは竹、植物の蔓、木の樹皮を三大素材として、ひごをつくり、それを編み組みした製品のことです。
青森県の遺跡では約5500年前のものとみられる編組品が発見されており、日本人は縄文の昔から編組品とともに暮らしてきたことが分かっています。しかしこの数十年で、中国製の安価なものやプラスチックの台頭により需要は減り、作り手も減少の一途を辿っています。また、もともとは農業の道具としてつくられるものが多く、稲作・畑作の閑散期につくられていたため、農業の衰退とともに編組品も衰退していきました。
需要が減り、供給も減ると当然値段も上がります。すでに作れなくなってしまったものもたくさんあります。器のように気軽に買えるものは少ないかもしれませんが、日本人の知恵と工夫により生まれた美しい編組品の存在だけでも知っていただければと思います。
一番上の写真は我が家の「ニギョウ箕」です。「箕(み)」は古くから農家で穀物をふるうために使われてきました。岩手県二戸郡一戸町には現在もこの箕をつくり続けている方がいらっしゃいます。ニギョウ(サルナシ)を用いて箕づくりが伝わっているのは国内で唯一この場所だけだそうです。
こちらは千葉の南房総でつくられた長芋かご。縁がしっかりとした二重巻きでとても丈夫そうです。ここにゴボウや長芋が入っているところが目に浮かびます。嬉しいことに南房総では今でもビワ入れかご、花入れかご、海苔や貝を入れるかごなど、個性豊かな編粗品がつくられています。貝類はプラスチック容器に入れるより長生きするそうです。窓際や玄関に置いてハンガーやスリッパなどを入れるのも良いですね。
こちらは長野県戸隠でつくられた茶碗かご。底は水はけが良いよう六つ目の上げ底、胴は美しい麻の葉編みです。縁は「金比羅つなぎ」といわれる巻き方です。戸隠の職人が金比羅参りに出かけた際に見つけたかごからヒントを得たといわれています。
青森県岩木山麓の根曲竹でつくられるりんごかごです。やわらかい根曲竹はりんごの肌を傷めないため、現在も需要があるそうです。他にもほたて蒸しかごなど根曲竹の特性を生かした津軽ならではの編粗品が存在します。
同じく根曲竹の豆腐かごです。なんと買った豆腐を持ち帰るためのかごで、豆腐が崩れないよう置いたときに底がたわむようにつくられています。六つ目編みや持ち手の巻き方が緻密で大変美しく、現代の暮らしにも物入れとして馴染みます。
かごを扱うお店はたくさんありますが、「ものとして弱い」と感じることが多々あります。巻き方が雑だったり、売るためにあえてデザインを加えていたり…。民藝の視点で選ばれた編粗品はその土地の風土に根ざし、用に即し、美しく力強いものです。
今日ご紹介したのはほんの一部。このように美しい編組品が日本各地に存在するなんて、素晴らしいと思いませんか。作業道具として使うだけであれば手間をかけて美しくする必要はないのですが、ものの少ない暮らしの中に美しさを添えようという日本人の心の豊かさが感じられ、見るたびに感動してしまいます。今後も少しずつご紹介していきますので、どうぞお楽しみに。