森山窯の森山雅夫さんのつくる器は、河井寛次郎氏が得意としたイッチンの技法と釉薬の色が特徴です。とくに石灰釉に呉須を含ませた黒っぽい色の「呉須釉」と、刷毛で呉須を塗った上に石灰釉を掛けて鮮やかな藍色を生む「瑠璃釉」、2種類の青の使い分けを得意としています。
そのイッチンと2種類の青が使われた箸置き。
箸置きとしてはやや大きく、カトラリーを置くのにちょうどいいサイズです。カチッとした形ではなく、なんとも言えない力の抜けた柔らかさのある形。イッチンも始まりと終わりのない流れの中で描かれていることが分かります。これは簡単そうでとても難しいことです。何か物をつくるときには大抵「ひとつのものを完成させる」という意識が働きます。毎日毎日同じことを何百何千回と繰り返し、動きを身体に染み込ませることでしかその意識を越えることはできません。
60年以上も陶工として器を作り続けている森山さんにしか生み出せない「無意識の美しさ」を存分に感じられる箸置き。小さな暮らしの道具ですが、ひとつあるだけで食卓の風景が変わります。